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粕谷昌良の社会科授業日記

筑波大学附属小学校の粕谷昌良が社会科実践を報告します。

特別編 由井薗先生との会話から生まれた「アナザーストーリー」の大切さ。

今回は、授業実践シリーズではなく、先日同じ学校に勤務している由井薗先生(先輩)と野毛で懇親を深めたときに、生まれた社会科実践では「アナザーストーリ」が大切だということをお話ししたいと思います。

横浜市の野毛は、ディープな酒場があふれる味わい深い場所で、由井薗先輩のごあんないで、今回で4回目の訪問になりました。そこでは2人で毎回あつーい社会科談義を数時間行うのが常です。

さて、今回私が「そうだ、そうだ」と納得したのは、由井薗先輩が大阪の講演で、シャア=アズナブルの肖像を提示して、機動戦士ガンダムの主役はアムロ=レイだが、最近はシャアを題材にした物語も出ていると、そういうものを「スピンオフ企画」というのだが、社会科においても「スピンオフ」は大切であるというお話。

確かに、一つの事実でも、主人公から見た物語と相手方から見た物語では全く違うと思います。

私の実践で言えば、3年生の実践で「東京23区に海水浴場を取り戻せ」があります。

 50年前に最後まで漁業権を持っていた葛西の漁師が漁業権放棄をして東京湾の埋め立ては始まり、23区から海水浴場が完全になくなりました。しかし、故郷の海を取り戻そうと、幼い日を葛西の海で過ごした関口雄三さんは海を取り戻そうと一人で活動を始めます。次第に仲間が増え、現在は「ふるさと東京を考える実行委員会」を立ち上げ、葛西海浜公園西なぎさに夏季限定で海水浴場を復活させることができました。この夏も多くの人々が海水浴を楽しんだわけですが、これを教材化するにあたって、私は、関口さんに寄り添うのは必須だと考えながらも、どうして東京湾の開発をしなければならなかったのか、開発の側の考えも学ばなくてはならないと感じるようになりました。「自然と開発」「少数の権利と多数の利益」を比べたとき、教員はどうしても、自然や少数の側に目が行きがちになります。しかし、開発がなかったとしたら、多数のことを考えなかったとしたら。自然の側からでは、一面的な見方になってしまうのではないでしょうか。

そこで私は、都庁を何度も訪ねて、開発した側の意図を探りました。すると、埋め立て前後では、人口は1.5倍、所得は50倍、国家公務員の給与は30倍、東京港の取扱貨物量も6倍になっています。開発の恩恵は十分理解できました。しかし、これだけでは足りない。子供に提示するには、どうしても「人」を登場させたいという信念があります。港湾局の方は丁寧に対応していたできましたが、何せ50年前のことです。知っているわけがありません。そこで、資料室に入れていただき、資料を読み漁りました。2回目の訪問で、出てきたのです。当時の港湾局長奥村武正さんの書いた文章が!そこには、葛西の漁師のことを考えながらも、港湾局長として開発を進めなければならない決意が書かれていたのです。その後、肖像も数日かかって見つけ、何とか教材化することができました。

 関口さんと奥村さん。それぞれ立場が違えど、当時を精いっぱい生き、そして、関口さんは今も活動の手をゆるめません。関口さんの活動は現在は都の港湾局も支持し、2020年の東京オリンピックに向かってきれいな東京湾を取り戻そうと手を取り合っています。関口さんは「官も民もなく、全員でやっていくことだ」としています。

50年前の物別れから、今は未来に希望をもって手を取り合っています。

 

さて、由井薗先輩が「スピンオフ」とお話ししたもの。機動戦士ガンダムの人気は、これまで「正義と悪」という対立軸だったアニメが、アムロとシャアではそういう対立軸にならない複雑さが当時の幅広い年代に支持されたからだと思います。「正義と悪」という単純な対立軸では世の中の出来事は言い表せないのがほとんどでしょう。それに私は授業の中で「悪者」を作りたくありません。誰もがそれぞれの立場で精いっぱいやっている。そういう前提に立って、物事を考えられたらと思います。少なくとも小学校の子供たちには、希望や夢をもって取り組む人々を見せてあげたい。それが基本的な軸になって、将来、世の中の厳しさ、困難なことを考え、立ち向かえる人になってほしいと思います。

由井薗先輩の「スピンオフ」のお話し。なるほどなあと思いました。私は、社会科単元はストーリー展開を頭に入れることが大切だと思います。自分が教材開発した驚きや苦悩が授業に生きてきます。それを構成して一つもストーリーを作るのです。だから、関口さんという必須のストーリーを学びながらも、奥村さんという「アナザーストリー」取り扱うことが、単元に深みを与え、多面的に考える教材になるのだと思います。

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