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粕谷昌良の社会科授業日記

筑波大学附属小学校の粕谷昌良が社会科実践を報告します。

13.多面的・多角的な考察を生み出す「アナザーストーリー」

 新しいシリーズを始めます。

3年生の「残したいもの 伝えたいこと」の単元で「23区に海水浴場を取り戻せ」という名前を付けました。

3年生で行ったこの実践は学習指導要領上の位置付けとしては、「内容(5)」の「イ 地域の人々が受け継いできた文化財や年中行事」に当たり、学区に存在する文化財(歴史的建造物等)や年中行事(お祭り等)を取り上げ、その保存に関する取り組みを教材化するのが一般的です。

 しかし今回は、かつて賑わい、漁業などの生計の場でもあった東京湾の海水浴場と干潟の復活に挑む、元漁師「ふるさと東京を考える実行委員会」の関口さんを取り上げることにしました。

 東京湾から海水浴場が消えたのはおよそ50年前、最後まで漁業権を手放さなかった葛西の漁師が漁業権放棄し、埋立が開始されたときまで遡ります。それから50年後2012年夏に1日限定で葛西臨海公園西なぎさに「遊泳ゾーン」が設置され、2015年には20日間で18,000人という多くの人が海水浴を楽しみました。

 その陰には35年前、たった一人で海水浴場を復活させようとした関口さんの姿があります。「葛西の海は喜びも厳しさも教えてくれた学び場だった」と語る関口さんは賛同者を増やしNPO法人ふるさと東京を考える実行委員会結成し、地道な水質浄化活動や都への働きかけを重ねて、50年ぶりの海水浴場を復活させました。

 この取り組みを学ぶ中で子どもたちは、社会の出来事には必ず人の情意があることを知り、未来を創る姿を獲得することにつながるだろうと考えています。しかし、これだけではただの感動の物語で終わってしまうでしょう。誰もが思うことでしょうが、東京湾の埋立にも理由があります。その議論を抜きに「自然が大切」「人の願いや思いが大切」では社会科として成立しないことでしょう。そこで、「アナザーストーリ」が必要になってきます。

 そこで、東京湾を埋め立てた理由を探るとともに埋立当時の港湾局長であった奥村正武氏の考えにも迫ることにしました。奥村氏には奥村氏の考えが十分にあって、東京都民の未来を考えて開発を決断したことを学んでいきます。子どもたちに葛藤することでしょう。その中で現実の社会でも行われているような、意思決定をしなければならなくなります。葛藤ししながらも行う子ども同士の議論が「深い学び」につながっていくと考えます。

 以前も書きましたが、単元構成にはストーリー性が必要ですそのストーリーも教師が一方的に決めつけたのでは面白くない。今回は、「23区に海水浴場を取り戻せ」という「ふるさと東京を考える実行委員会」の皆様を追いながら、それとは逆の立場の東京都港湾局の奥村さんという「アナザーストーリ」を追いながら、子供たちに深い学びを実現していきます。「アナザーストーリー」を学ぶことで、多面的・多角的な考察がなされるのだと思います。

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