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粕谷昌良の社会科授業日記

筑波大学附属小学校の粕谷昌良が社会科実践を報告します。

26.解決へ向けて  関口さんと奥村さんの考える東京湾の未来は

いよいよ、授業のクライマックスです。

黒い水事件の後、葛西の漁師が東京都港湾局乗り込む。そして、港湾局長奥村正武さんに訴えたのです。

「海の汚染を取り締まってほしい」葛西の漁師は生活に困っていたのです。何とかしてほしい。きっと必死の陳情だったことでしょう。

私は、子供たちに『その時当時の港湾局長だった奥村武正氏はどうしたと思いますか』と発問しました。

子供は葛西の海での体験活動や黒い水事件で漁師は苦労していることを学んでいるので、助けてあげてほしいという気持ちになっています。

「工場を取り締まった」

「排水を止めさせた」

「排水はきれいにしてから流すように指導した」などといいます。

そこで私は、都庁で見つけた奥村氏の手記に記された言葉をゆっくりと読み上げました。

『それではあなた方は漁業をやめなさい、あなた方の持っている漁業権を売りませんか。我々はそこを埋め立てにして土地にして、土地経営によってペイするし、あなた方の漁業補償というかたちで、お金を渡しましょう』と。

子供たちは憤然となります。

「ひどい。全くの漁師の気持ちが分かっていない」

「水をきれいにしてほしいのに、どうして土地を売れというの?」

「全然要求と違う。漁師をやめろなんて!」

しかし、そこで『どうして、奥村さんは漁業権を売りなさいといったのかな?』と発問しました。これは【新たな視点を示す発問】です。

子供たちは考えます。

「奥村さんの立場では、東京湾を発展させる必要があったんじゃないか」

「海はダメだから、あきらめたほうがいい。せめてお金をと」

「前に調べたけど東京湾の埋め立てで東京は発展したでしょ。だから奥村さんは東京都全体のことを考えていたんじゃないかな」と視野を広げていきます。

そこで、『みんなは、奥村さんの答えに賛成できるかな』と問います。

賛成と反対が半数です。

漁師の立場に立てば生活を奪われるのでとても賛成できません。

一方で埋め立ては全体の利益になることは全員が承知しています。

「東京都の人口は1000万人だよ。葛西の漁師は4000人。多数決なら絶対に埋め立てだよ」とある児童が発言しました。

子供は「そうかも知らない」という雰囲気になってきます。

子どもにとって多数決は重い価値を持っているようです。

多数決はは絶対なのか?

沈黙になりかけたとき、おとなしい男の子が手を挙げて発言しました。

「じゃあ、たくさんの人のために、4000人の人が犠牲になっていいの?自分が犠牲になったら耐えられる?」と。

教室は沈黙に包まれる。多数の利益と人々の権利。開発と環境。子供たちは深く悩んでしまいました。

授業後の感想

・私はよくわからなくなりました。奥村さんは未来に、埋立という道を選びました。しかし、関口さんは水の性質をよくし、漁師を続ける道です。

・黒い水事件のせいで、東京の漁業ができなくなってしまった。工場は自分勝手すぎると思いました。しかし、奥村さんが出した決断は正しいと思います。なぜなら、黒い水事件のせいで東京の海は汚くなってしまいました。奥村さんも海を手放したくなかったでしょうが、海が汚くなってしまったのでしょうがないと思います。
・私は、奥村さんはひどいと思いました。理由は、奥村さんは、葛西の漁師たちの深い気持ちが分かっていない。そしてどれだけ熱心なのかわかっていないからです。奥村さんは漁業で生計を立てているのは知っていると思いけど、4000人の人が犠牲になるなら、もっとほかの方法で解決して欲しいと思いました。

・私は、奥村さんは悪いとは思いません。理由は、汚染されて、奥村さんはどうしようもなかったのだと思います。何もしないのはダメだから、お金をあげようといったのだと思います。
・4000人を助けるという案が出たけれど、4000人を助けるには漁業権を売れというしかないと思います。どう工夫しても絶対に犠牲にだれかがならなきゃならないと思います。仕方がないという気持ちも少しわかります。

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